COMPANY's Dr. LOG

小説

第1話 目標さんの駆け落ち(その3)

「グッドさんにお聞きしますが、会社って、わたしが中心にいるべきですよね。まずわたしがいて、わたしに向かって社員が仕事をする。私のいない会社なんて想像できませんもの。それなのに、みんなひどいんですよ」と目標さんは鎌をかけてきた。

「それはどうでしょうか。いや、あなたがいなくても何とかなりますよ。だいたい、立ち上がったばかりのベンチャー企業なんかは、目標を作っても意味がないですし」
僕はあえてちょっと冷たく言った。この辺でジャブを打っておかないと、あまりに彼女のペースになってしまう。
「えっ、そうなんですか?」と大げさなリアクションの目標さん。
「でも、ベンチャー企業だって事業計画はつくりますでしょう? そのなかには私のような目標が必ずあるはずだわ」
「計画は作りますけど、たいがいは銀行向けですね。この売上になったら利益はこうなりますと。だけど、実際の仕事には関係がありません。だって、やってみないとわかりませんもん」
「そんなもんですか?」
「そんなもんですよ。目標さんの出番は、ある程度、行動とその成果の関係がわかってからですよ。それまでの目標は、ただの絵に描いた餅ですから。フェイクですね。なんでもいいんです。だから、あなたのようなしっかりとした目標さんが必ず必要かと言うと、そうではないんです」
目標さんが、ちょっと寂しそうな顔をしたのでフォローをする。
「でも、たいていの会社にはあなたが必要だと思いますよ。ある程度、仕事のサイクルが継続的にまわっているようなら、あなたがいた方がうまくいきます。みんながあなたを見て、あなたを目掛けて仕事をしますから」
 目標さんは、満足そうにうなずいた。

「私があまりにゴージャスだから、私をゲットするイメージができないんでしょうね」
「きっと高嶺の花なんでしょうね」と僕は話を合わせる。
「僕でも近寄りがたい感じですもん。社員のみなさんからは、きっと手が届かないほど高い位置にいらっしゃるんでしょうね」
「おっしゃる通りで、みんなが言うにはもっと控えめに、現実的になってくれと」
「ふーん。目標さんは、頑張ったらギリギリ手が届くところにいるのが一番いいんですよ。あなたに手が届きそうだからこそ、社員のみなさんにスイッチがはいって、あれやこれやアイデア出る。うまくいけばあなたをゲットできる。そういう流れになればいいんです」と、僕は一般論で受けて立つ。

「でも、そもそも大きな成果に向けて頑張るのが仕事でしょう。簡単にわたしが手に入るようじゃ、成長がありませんものねえ。現実的に誰とでも付き合えるような庶民になったら、私の存在意義がないと思うんです」
「目標さんは大きくゴージャスだったらいいというわけではありません。目標を決めれば、必ずできるなんてものじゃありませんよね。それじゃ精神論ですから」
「もちろん、精神論なんかじゃありませんわ。どうやったら私に到達するか、知恵を出さないと。社員のみなさんは最初からあきらめてるんですよ」

(その4に続く)

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