COMPANY's Dr. LOG

小説

第1話 目標さんの駆け落ち(その4)

「あなたが大きすぎるのか、ちょうどよい大きさなのか、私にはわかりません。というか、その水準は経営の意志ですから、外の者がとやかくいうものでありません。でも、現実にあなたが嫌われているということですし、社員の知恵も出ていないようですから、何かを変えないといけないと思いますよ」
目標さんは不満そうに、「じゃあ、社員のレベルに合わせて私の大きさを決めろと?」
「そりゃそうですよ。社員に合わせるというか、社員に適した目標さんのサイズや、つくり方があるということです」
 目標さんは、さらに不満を顔いっぱいに広げた。
「あなたのサイズは、まあ数字ということですが、どうやって決められてます? 社長のトップダウンですか?」

「各部門の意見は聞いていますけど、最終的には社長のトップダウンでしょう。どこでもそんなものではないですか。グッドさんも先ほど、経営の意志とおっしゃいましたよね」
ここで、たっぷりと間を置き、コーヒーを一口飲んでから言った。
「社長の思いを実現するために私がいるのですから」
目標さんは、今日一番のキラキラした笑顔を見せた。
「私が大きいのか小さいかなんて、気持ち一つだと思うんですよ。社長は・・・」と、ここでさらに潤んだ目になり、「社長は、自分ならできる、と思っているはずです」。
「まあ、気持ち次第という、その気持ちがとても難しいんですよ」
「私が社員に合わせて地味になっちゃったら、社長はきっと悲しむと思います」と本当に悲しそうな顔をする。うっとりしたり、悲しくなったり、忙しい人だ。

僕は、最初から話がまったく進展していないことを、あえて言うべきかどうか思案した。しばしの沈黙のあと、僕は口を開いた。
「あなたに何かアイデアはありますか? どうすれば社員があなたをゲットできるか。その手掛かりでもあればいいんですが」
「私は目標ですから、そんなこと知ったこっちゃありません。それは社員の仕事でしょう」と取り付く島もない。
目標さんがコーヒーを飲みほしたタイミングで、一週間後に連絡することにして、本日はお引き取り願うことにした。
彼女が去った後、さっきまで彼女が座っていた椅子には、驚くほど彼女の痕跡は消えていた。目の前にいるときは威圧感があるが、ひとたび姿を消すと、誰の意識からも消えてしまう。けばけばしいけど空虚な存在。舞台を降りた喜劇役者のような悲哀を感じずにはいられなかった。

コーヒーカップを手洗いしながら、バッドさんがぼそりと口を開く。
「ありゃあ社長とデキてるな」
それは僕も思っていたことだ。
「目標さんは、いつも権力者とねんごろになっちゃうんだよな。僕と一緒に仕事をしていたときもそうだった。権力者とべったりになって、『わたしに届かないのは社員が悪い』になっちゃうんだ」
「そういう関係にはみんな敏感ですからね。目標さんと社長との関係が分かっているから、みんな表立って批判はしない。でも、普段は完全無視。これじゃあマネジメントはうまくいきませんね」
「でもな、そいう惚れっぽいところが彼女のいいところなんだ。すぐ本気で好きになる。喜怒哀楽がはっきりしていて、彼女をちらと見ただけで、喜んでいるのか悲しんでいるかすぐわかる。殺伐としがちな会社の中に、そういう情念を入れるんだな、彼女は」
「なるほど。バッドさんにプレッシャーをかけていただけではないんですね」
「その濃い情念がプレッシャーなんだけどな」
「いずれにしろ、地味になりすぎるのは考えものですね。彼女のよさを残しながら、うまく機能するようにしたいですね」
「では、グッドさん、どうします?」
「ここは正攻法で。まずは方針さんをあてがってみます」
「ふーん、方針さんな。彼にも随分世話になったな。そうだな、それが常套手段だろう」

(その5に続く)

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