COMPANY's Dr. LOG

小説

第1話 目標さんの駆け落ち(その6)

「そうです。問題は、動き出しがわからない。問題は『リピーターを増やすために何をするか』『新規顧客を獲得するために何をするか』です」
「そうですわね。でも、それを考えるのが社員の仕事でしょう?」
「と言っても、できていないんだから仕方がない。たとえば、『既存のお客様に来店特典をつける』『他社の人気製品とタイアップする』といった手掛かりを示して、その方法を考えていただく。こうしたらどうでしょう」
「ふうん、動き出しやすそうねえ、その方が」
「でしょう? それが私なんです。まず、みんなでここに集中して考えよう、あるいは行動しようという『領域』を示すのが私なんです」
「あら、それは大事な役割ですわね」と目標さんも納得した様子。
「わたしは、あなたが会社の真ん中で輝くためのサポーターなんです」
「そうなんですね。なんだかあなたとわたしは切っても切れない縁がありそうですわね」

どうやら、目標さんは方針さんに心を開いてくれたようだ。こうなれば、そろそろ僕の出番だ。
「目標さんがいらっしゃって、それで社員が動き出せれば、それは素晴らしいことです。でも、たいていはそうはいきません。目標さんと方針さんがセットになって、はじめてみんなが考えだしたり、動き出したりできるんです。目標さんが光り輝き、みんなが目指す存在になるためにも、目標さんには方針さんが必要なんです」
「だから、わたしたちは常にセットで動くべきなんですね」と、殊勝な態度で目標さんが言った。

「方針さんが大事な役割だということはよくわかりました。でも、方針さんがいらっしゃらないことだってあるでしょう? つまり、何をしたら私がつかまるか、皆目わからないことだって・・・」
「はい、そんなこともあるでしょう。そのときは、目標であるあなたも存在できません」
「存在しない・・・。わたしはいないということですか?」
「方針さんと一緒にいないということは、何をしていいか、手掛かりなしのノーアイデアだということです。先ほど、方針さんが『いなくていい』ときもあると言いましたよね」
「はい、そうおっしゃいましました」
「それは、社員が目標さんを見ただけで動くことができれば、ということです。そうでなければ、もはや目標さんだけでは存在価値はありません。それは単なる『願望』ですね。もしあなたが出歩くなら、必ず方針さんとセットです。出歩いて社員のみなさんに顔を見せたいなら、方針さんを連れ出せるように、考えてください。単独行動は厳禁です」
目標さんは、黙って宙を見つめた。僕の言葉を反芻して、自分の役割を確認するように。

「では、一体わたしは何ができるのでしょうか? 私は考えませんよね。目標ですから」
「はい、考えるのは社長や社員です。目標さんが形作られる過程で、必ず方針さんも姿を見せるようにしてください。そして、普段は方針さんを前に出し、あなたは後ろを歩いてください。大丈夫です。後ろにいても十分に存在感はありますから」
 目標さんと方針さんはしばらくじっと互いを見つめあった後、手をつないで、寄り添うように会議室を出ていった。思いのほか、いい感じになった。しばらくはこれで安心だ。

(その7に続く)

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