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桜橋ビジネス勉強会

大阪発の海民文化

ある集団の優劣の根拠を文化的な背景に求めることは、形を変えた人種差別であるとユヴァル・ノア・ハラリ氏は『サピエンス全史』で指摘しています。

「○○地域は伝統的に家庭教育がしっかりしているので、よい政治家や経営者を多く輩出している。だから○○地域出身者は優れている」という言い方がそれに当たります。

○○地域に生まれたという出自・血統を単に文化という言葉に置き換えているだけで、裏を返せば、その他の地域・出自を差別しているということです。

さらに、ある個人の特徴を集団の属性に求め、勝手に優劣の評価軸に乗せることは、その人の個性を集団のカラーで塗りつぶすことになり、認識上の暴力とさえいうことができるでしょう。

したがって、「○○地域の文化は優れている」という言い方は慎重でなければいけません。

このことは、書籍『大阪の逆襲』の著者陣の一人として、常に気にかけていたことでもあります。

 

先日の桜橋ビジネス勉強会では、大阪の「海民文化」を取り上げ、仕事の同僚の浜口優さんに解説いただきました。

日本人の気質は統制的・保守的な農耕文化に根ざしていると考えがちですが、実は狩漁をなりわいとする自律的・進取的な気性も併せ持っています。

それは「宵越しの金は持たねえ」といった江戸っ子気質に受け継がれていますが、徳川家康に請われて江戸に移住した大坂(大阪)の漁民が、日本橋の魚河岸の設立に貢献したことに端を発しています。

集団内の平等意識、利他的な行動規範、自治の精神など、これからの多元的・多極的な組織を考える上で、この海民文化を参考にしたいというのが勉強会の狙いでした。

 

この議論の進め方は、先に指摘したように、「だから大阪はエラい」という選民思想にすり替わる危険性があります。

日本人、江戸っ子、大坂の漁民という言葉の使い方が、危うさをはらんでいます。

選民思想は、差別意識という倫理的な問題とともに、過去を美化したステレオタイプのイメージに閉じこもり、変化を嫌う意識にもつながります。

まったくもって思考停止であり、未来志向とは言えません。

 

とはいえ、先人への敬意、伝統に対する愛着や誇りを持つことは、健全なことでもあります。

私たちの課題は、その思いを未来に向かうエネルギーに換えることでしょう。

たまたま受け継いだ先輩方の資産を、たまたま受け継げなかった人たち、あるいは違う資産を受け継いだ人たちと分かち合い、融合させながら、また新たな資産を次の世代に残していく。

そのような大きな循環の中の一員として、具体的な「次の手」を出していきたいと思っています。

北海道に生まれ、大阪・関西に根を生やした者として、切にそう思います。

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